運命の最終節決戦に、ボルテージは上がる。

横浜F・マリノスの波戸康広アンバサダーも、FC東京の石川直宏クラブコミュニケーターも。ピッチの中でクラブに尽くしてきた人は、今ピッチの外からクラブを支えている人になった。つまりは自分たちのクラブのことを中からも外からも知り尽くす存在。

トークバトルの前編は自チームの成長と相手チームの印象、そして試合の展望について語り合います。では前半戦、キックオフ!

Text by 二宮寿朗

両監督2年目のシーズン

波戸 ナオ、きょうはお手柔らかにお願いしますよ。

石川 こちらこそ。波戸さんとはサッカーのイベントでは会っていますけれど、こうやってお互いのチームの話をするのは昨シーズンの11月3日以来ですかね。

波戸 F・マリノスの「解説付スペシャルシート」という企画で解説、トークを繰り広げたんだよね。あのときはお世話になりました。さあさあ、最終節に向けて盛り上がってきていると思うんだけど。

石川 F・マリノスのチームの雰囲気はいかがですか?

波戸 アンジェ ポステコグルー監督が植え付けてきた攻撃的なスタイルを1試合1試合積み上げきて、今の順位があるとみんな思っているから終盤戦に入ってもそれは一緒。その先にあるものはあまり意識していないかな。

石川 東京も、1試合1試合というのは一緒ですね。長谷川健太監督も「自分たちの質を毎試合高めていくことが大切だ」と言ってくれています。これまで数多くの経験をしてきた監督の言葉には重みがありますよね。

波戸 ウチもFC東京も監督2年目のシーズン。昨シーズンは残留争いもしたけど、YBCルヴァンカップ決勝まで進めた経験が大きかった。優勝だけ狙うなら試合の途中からでも戦い方を変える考えもあったと思う。でもアンジェ監督は頑として変えなかった。結果的に優勝は逃がしたけど、この姿勢が今シーズンに活きていると思うんだよね。

石川 何があっても自分たちのスタイルを曲げないと?

波戸 そうそう。昨シーズンは自分たちのサッカーを90%やれていても、残りの5分、10分で点を取られて負けるとか、10%の足りない部分で結果がついてこなかった感があるんだよね。今シーズンはこのサッカーをやるうえでウイークポイントとなる守備のリスクをみんな意識しているのと、コンビネーションを含めて攻撃の精度が上がってきた。積み上げてきて、100%に段々と近づいてきている。

石川 我々も積み上げるという点では似ているのかもしれませんね。昨年、夏場に勝てなくなったのは守備で前線はボールを奪いにいきたい、後ろは残っておきたいとなって中盤のスペースが空いたところをやられてしまったから。今年は全体をコンパクトに、ラインの上下動がうまくやれています。守るときはしっかり守る、前から行くときは後ろもしっかり押し上げる。みんな同じ絵が描けていると思います。

波戸 今シーズン6月29日のアウェイマッチは2-4で敗れているんだよね。マルコス ジュニオール選手が先制したけど、そこから4失点した。パスを高い位置で引っ掛けられてのショートカウンター、低い位置でもロングカウンターがあって、ある意味FC東京の狙いがはまった試合だったかな。

石川 確かに奪ってからのカウンターがはまりましたよね。でも波戸さんが言うように、あれからもF・マリノスの(ボールを保持する)質は上がっているわけじゃないですか。6月のようにうまく行くとはみんな思っていないはず。

波戸 F・マリノスでもプレーした久保(建英)選手がいなくなって、攻撃の部分ではどうなの?

石川 相手にしっかり守られてスペースがないときにどう攻めるのかっていうのは課題でした。最近でもアルトゥール シルバ選手がミドルシュートを決めたり、連係で崩したりと、点を取るパターンが増えている。我々も6月の対戦から質を上げているということを忘れないでくださいね、波戸さん。

波戸 おーっ。自分たちの長所をぶつけ合うってことね。楽しみやわ。カギを握る選手はもちろん全員なんだけど、敢えて名前を挙げてお互いにぶつけてみようか?

石川 いいですよ。

勝負のキーマンは?

波戸 この試合、F・マリノスのカギを握るのはセンターバックの2人、チアゴ マルチンス選手と畠中槙之輔選手だと思っているんだよね。永井謙佑選手とディエゴ オリヴェイラ選手の強力2トップをどう封じ込めていけるか。特にディエゴ選手には6月の試合で2点取られているので、〝フィジカルモンスター対決〟と見ればチアゴ選手に期待したいかな。ここを抑えることがウチのリスク管理。2トップに仕事をさせず、攻撃サッカーを展開していきたいね。

石川 我々のキーマンを挙げるなら、橋本拳人選手。日本代表にも入って凄く成長していると感じます。前線が警戒されると2列目、ボランチがどう点に絡んでいくかが大事。橋本選手は長いレンジでも打てるし、ググッと中に切り込んで決め切る力もある。その意味ではF・マリノス側では同じボランチの喜田拓也選手に注目していますね。ボールを引き出してさばく、重要な役割を担っているじゃないですか。彼らの出来が非常に重要になってくるかなとは個人的に感じますね。あと、マルコス選手の「かめはめ波」だけは絶対にやられたくない(笑)

相手から見たF・マリノスのサイドアタッカー

波戸 ナオにちょっと聞いてみたいのは、ウチの日本人サイドアタッカー。仲川輝人選手と遠藤渓太選手はどう見ている?

石川 2人とも突破力が魅力で、ガンガン行くのは個人的に好きです。東京五輪世代の遠藤選手は伸びていますよね?

波戸 今、マテウス選手とポジションを争っているけど、それもかなり刺激になっているみたい。もし左ウイングで先発したら対面は日本代表の室屋成選手になる。遠藤本人に話を聞いたら「日本代表の選手を相手にどれだけ自分がやれるかやってみたい」と言っているし、室屋選手が相手ならかなり燃えると思うんだよね。

石川 なんだかんだ見どころがいっぱいありますね。

波戸 ナオには悪いけど、今シーズンを締めくくる試合なんだからしっかり勝たせてもらうよ。

石川 わっ、言いますね。波戸さん、その言葉、そのままお返しします!

対談-後半戦-はこちら

波戸康広(はと・やすひろ)

波戸康広(はと・やすひろ)
1976年5月4日生まれ、兵庫県出身。
1995年に横浜フリューゲルスに入団し、2001年には日本代表に初招集された。横浜F・マリノスではおもにDFとして活躍し、Jリーグ通算356試合に出場。現役引退した翌2012年からアンバサダーに就任している。

石川直宏(いしかわ・なおひろ)

石川直宏(いしかわ・なおひろ)
1981年5月12日生まれ、神奈川県出身。
2000年に横浜F・マリノスユースからトップチームへ昇格。3年後にFC東京へ完全移籍すると、同年12月には日本代表初出場。おもにMFとしてJリーグ通算316試合に出場した。現役を引退した翌2018年からクラブコミュニケーターに就任。