まりびと

まりびと まりびと
まりびと たるぞー

♪トゥールルッ、トゥルルッ、トゥールゥルゥーッツ~。

みなさん、こんにちは。きょうの「まりびとの部屋」のお客様は、初登場(毎回、初めてですが)のイラストレーター、たるぞーさんです。パチパチパチ。

たるぞーさんは2014年以来、横浜F・マリノスでLINEスタンプやら似顔絵グッズのデザインやらトリフェスのパンフレットデザインやら、多くのイラストを手掛けてきました。観察眼を光らせて描く選手の似顔絵は大評判。
あっ、そうそう、この「まりびと」のロゴもたるぞーさんの作品なんです。

いつもほのぼのとして何だか温かくなるイラストには、どんな思いがこめられているのでしょうか――。

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――2019年度版のLINEスタンプを見ても、選手の特徴が良くあらわれていると思います。コツを教えてください。

「まず輪郭を見ます。たとえば丸っぽいのが天野純選手、山田康太選手、丸系で少し角を加えたのが扇原貴宏選手……面長なのが杉本大地選手、大津祐樹選手、遠藤渓太選手……輪郭に加えておでこの形とか髪のボリュームとか、そういったところも細かく見ていきます」

――キャラクターもしっかり出ていますよね。

「観察はたくさんしますよ。練習を見に行って、何気なくどんな話をしているかとか、チームメイトのなかでどんな存在だとか。あと欠かせないのが選手名鑑ですね。やっぱり妹がいるんだとか、そうよねA型よね、とかいろいろと参考にできる情報が詰まっているんです」

――スタンプにある山田選手の「かわいいがすぎる」というのは、どういうことですか?

「山田選手のSNSを見てみると可愛いものが好きなんだろうなと。そういうところを出せば面白いかなと」

――かなりマニアックな感じですね。

「スタンプの広瀬陸斗選手、三好康児選手のポーズは先のファン感から取らせていただいています。キャラクターが良く出ていましたよね」

――個人的には栗原勇蔵選手のイタズラ好きそうな感じが伝わってくるのがたまらないですね。

「以前クラブから『栗原選手が目を開けてほしいなって言ってました』と言われたのですが、開けると迫力が出てしまうので…(笑)ご本人のいたずらっぽさを出すには目は閉じていたほうがよりいいかなと。そのほうが楽しそうだなって」

――ついでにクラブからクレームが一つ届いています。

「えー何ですか?」

――扇原選手とマリノスケが似ているということで、昨年度のトリコロールフェスタの告知イラストにおいて扇原選手の影をマリノスケにしたとか。スタッフが気づかないような仕込みで遊ばないでください(笑)、と。

「ハハハ。影と言っても、うっすらです。ファンの方が喜んでくれたらと思いまして」

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――新加入選手のキャラクターをつかむには時間が掛かりそうですが。

「練習を見に行ったときに新加入選手に声をかけて写真を撮らせてもらっています。そのときの仕草や会話も参考にさせてもらって。たとえば李忠成選手は、兄貴分的な感じがやっぱりあるなとか。そういうのをちょっとでもつかめれば」

――あと気になっているのが、飯倉大樹選手の似顔絵。いつもキリッとしていてイケメンなんですよね~。

「ご本人の気合いと同じく、こちらもなぜか気合が入っちゃうんですよ(笑)」

――ふーん。じゃあ話を変えましょう。そもそも、なぜ「たるぞー」なんですか?

「よく聞かれるんですけど、私の旧姓に元日本代表のGK楢崎正剛選手と同じ『楢』がつくんです。漢字の『楢』と『樽』って似ているじゃないですか。OL時代に同僚から『たるぞー』と呼ばれていたので、じゃあこの名前をいただいてイラストレーターとして活動していこう、と」

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――横浜生まれ、横浜育ち。高校卒業後に横浜信用金庫に就職された、と。

「Jリーグが開幕して何年か経っていて、ヨコシンにもマリノス君通帳があったんです。それが最初の関わりでしたね」

――当時からJリーグやサッカーに興味があったのですか?

「いや、まったく(笑)。のちに結婚する主人は小学校からの同級生で、ずっとサッカーをやっていたとはいえ〝見る〟よりも〝する〟ほうが好き。なので私もマリノスの事は知ってはいましたが、特に観に行くこともなく、マリノス通帳を作り続ける日々でした(笑)」

――ならばイラストは?

「目の前にいる課長さんをずっと観察して似顔絵を描いて、同僚から『似てる~』とか『これ仕事にしたほうがいいよ』とか言われていたので、そうなのかなあとは思っていました」

――元々、似顔絵は好きだったんですね。

「中3のときに男子がふざけて遊んでいるのを絵にするのが面白くて。その一人が、うちの主人なんですけどね(笑)。それを女の子の友達に見せて、みんなでゲラゲラと笑って。実在の人物を描くようになったのは、それからでした」

――ご結婚されて3人のお子さんが誕生して、育児をこなしながらイラストの仕事に至る経緯を教えてください。

「銀行を退職してからフェイスペイントの仕事はすごく楽しかったんですけど、育児に影響が出てしまって。主人も仕事が忙しいので、家にいながらできる仕事は何かなと思ったときに、あっ、イラストがある!と」

――たるぞーさんにはサッカー好きのイメージが強いんですけど、きっかけがなかなか見えてきませんね。

「サッカーにはまったきっかけが、2011年にカタールで開催されたアジアカップでした」

――アルベルト ザッケローニ監督が率いた日本代表が2大会ぶりに優勝します。決勝のオーストラリア戦で決勝ゴールを決めたのが李選手でしたね。

「そのときはまだ選手のこともあまり知らなくて。右サイドで手を振る内田篤人選手の仕草がなんかすごく気になったんです」

――ボールを呼び込む姿に?

「はい。それで内田選手のことをチェックするようになったら、吉田麻也選手のブログにグレーのスウェットでキッチンに立っている写真があって、それも後ろ姿。なんかこの人面白いなと思って、すっかりファンになったんです。でも何もサッカーのことを知らないのにファンになるのは失礼かなと思い、とにかくサッカーを勉強しました」

――どのように勉強を?

「内田選手が所属していたシャルケ04の試合をたくさん観ました。ノートにフォーメーションとか内田選手がどんなプレーをしたかを書き込んで。様々な戦術本や選手の自伝などを読みこんで。すると、なるほど彼は必要な時に必要な場所にいることが出来て勝負の勘所がわかっている、些細な駆け引きでうまくチームを助けるプレイができるんだな、と。内田選手のプレーからちょっとずつサッカーが分かるようになっていったんです。そうすると……」

――家族にも影響が出るような。

「そうなんです。母親の影響は大きくて家の中がサッカーに染まっていきました。主人がサッカーをやっていたこともあり、まず長男がサッカーを始め、その後一番上の長女が女子サッカー、しばらくして二男がフットサルを始めます」

――まだ、F・マリノスとの接点が見えてきませんが。

「ここからです(笑)。長男がF・マリノスのサッカースクールのイベントに参加して、試合のチケットをもらったんですよ。2012年7月の川崎フロンターレ戦ですね。それに娘の友達がサポーターで、彼女たちが試合に行くようになって……」

―― 一気に関係性が膨らんでいきましたね。

「娘が2012年12月の天皇杯準々決勝の名古屋グランパス戦をテレビで見ていたんです。そのときPKを止めた選手がすごい!となり、直後に映った飯倉大樹選手の笑顔に落ちて、そこからすっかり娘が飯倉選手のファンになってしまいました」

――なるほど、だから飯倉選手をいつもカッコよく仕上げているわけですね! まあカッコいいですけど。

「いやいや……個人的な感情は特に入っていないです、多分(笑)」

――たるぞーさんは、このときまだF・マリノスに興味がなかったと。

「いや、段々と(笑)。翌年のエイプリルフールの日にクラブの公式ツイッターで【兵藤慎剛選手 特殊能力覚醒のお知らせ】とあって、兵藤選手のハンドパワーにみんなが吹っ飛ぶという写真が載っていました。サッカー選手って、こういう面白いこともするんだなと思っていたときに、ちょうど長男が前座試合に出るからということでヤマザキナビスコカップの大宮アルディージャ戦を観戦したんです」

――そのときに兵藤選手のプレーを目にしたわけですか。

「はい。小林祐三選手とパス交換して、軽く走りながらヒールで自然なパスを出す兵藤選手のプレーにやられまして。当時内田選手や日本代表選手などのイラストを描いてツイッターでアップしていたんですけど、兵藤選手も多くなり、そしてF・マリノスの選手も多くなり。その頃はフォロワー数が400くらいだったのですが、内田選手のファンの方やF・マリノスのファンの方に段々と広まっていったんです。そしてその年末にクラブ公式ツイッターの背景画像コンペがあり、それに応募したところ採用されてそこから仕事をいただくという形になっていきました」

――兵藤選手から広がっていったんですね。

「兵藤選手を見ていくうちに他の選手も気になり、結果チーム全体を見るようになってすっかりはまってしまいました。なので兵藤選手が移籍したときは1週間くらい泣きましたね」

――クラブから感謝の言葉も届いております。みなとみらいのマリノスタウンが閉鎖された際、寒いなか窓ガラスに選手全員のイラストを書いていただいた、と。1週間でなくなってしまうというのに……。

「あのときはかなり寒かったですからね。でも1週間でなくなるとしても、ああやって最後の思い出になるようなことをやらせていただいて感謝しています」

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――これからどんなイラストレーターになっていきたいという夢はありますか?

「私はデザインや美術の学校を出ていませんし、イラストの描き方もソフトの使い方も独学でやってきたので、基礎的な技術と知識が足りずまだまだだと思っています。なので家族も応援してくれていますし、もっと勉強して、みなさんに喜んでもらえるイラストを描けるようになっていきたいです」

このインタビューの翌日に、メールをいただいた。
「説明が十分ではなかったところもございましたので」とそこには選手のプレーのイラストとともに、描くポイントが丁寧に記されていた。

何選手か、ご紹介したい。

飯倉大樹選手
「ギリギリ枠内のボールをやわらかいタッチで、相手に渡らないよう落とす技術が素晴らしいと思い、そのタッチで描いています。強気な表情も特徴」

畠中槙之輔選手
「縦パスが強力な武器なのと低めの重心を描いています」

天野純選手
「FKやCKの後ろ姿が特徴的。少し丸目の背中。パンツを腰で履いているので、アンダーが見えやすい」

遠藤渓太選手
「走るときの手の向きに特徴。手のひらが下を向いている。少し猫背気味」

扇原貴宏選手
「走るときの特徴は、ひじをたたんでいる。太ももが上がる」

松原健選手
「スローインの形がきれい。腕、足ともにそろいます」

などなど。

一つひとつの作品に、愛情とリスペクトが伝わってくる。

きょうも彼女は、トリコロールのフットボーラーを微笑ましく見つめながら優しいタッチでペンを走らせる。

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二宮寿朗Toshio Ninomiya

1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当。'06年に退社し「Number」編集部を経て独立。著書には『岡田武史というリーダー 理想を説き、現実を戦う超マネジメント』(ベスト新書)、『闘争人~松田直樹物語』(三栄書房)、『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『サッカー日本代表勝つ準備』(北條聡氏との共著、実業之日本社)がある。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)を連載

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