まりびと

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まりびと 杉本大地、李忠成、広瀬陸斗

一体感なくして頂点なし――。

 2004年以来、15年ぶりのJ1リーグ制覇を果たした横浜F・マリノス。魅了する超攻撃サッカーとともに、チームの強みとなったのが「一致団結」の明るく、激しく、活気ある雰囲気であった。スターティングで出場する選手のみならず、サブに回る選手、ベンチに入れない選手すべてひっくるめた全員の力が、優勝へのパワーを醸成していった。

李忠成、杉本大地、広瀬陸斗。
スポットライトを継続的に浴びずとも、彼らもまたチームを支えた一人であった。
「まりびと」による優勝記念特別座談会。
ぜひここも一体感あふれるトークを期待しましょう!


――優勝おめでとうございます。

一同 ありがとうございます!

――それぞれ、優勝をどう感じたのか教えてください。
李  プロ16年やってきて、初めてリーグのタイトルを獲れたことはとてもうれしいし、この経験は自分にとって宝物になりました。リーグのタイトルは(チームに)本当の力がないと獲れないですから。

杉本 うれしいですね。個人的にはケガもあってメンバーから外れてシャーレを掲げるのを外から見なければならなかったのはちょっと残念でしたけど。

広瀬 小さいときからの夢が一つかなったって感じですね。チュンくんが言うように宝物になりましたけど、これからもまた優勝していきたいなって思いました。

――チームの一体感がどう生み出されたのか、をテーマにして語っていただきたいと思います。今季浦和レッズから移籍してきた李選手は、年長者の立場でF・マリノスにやってきました。どんなふうに振る舞っていきたいと考えていましたか?

李  確かに自分がどう振る舞うかを周りの選手から見られているなって感じました。自分としては何かを言うとかじゃなくて、サッカーに取り組む姿勢を地道に見せていくことで何かチームにいい影響を与えられたらなっていう思いはありました。

杉本 本当に学ぶことが多かったです。背中で見せてくれるというか、練習でも手を抜く姿を見たことがなかったので。

広瀬 チュンくんだけじゃなくて(栗原)勇蔵さん、(大津)祐樹くんとか年齢の上の人が(試合にコンスタントに出ていなくても)練習から100%でやるから、もし自分たちが手を抜いたら浮いてしまう。上の人がうまく引っ張ってくれたなって思います。あと、チュンくんにはプライベートでもすごくお世話になっていて。最初に新入団のメンバーでご飯に行こうとか言ってくれたり、馴染みやすくしてもらいました。凄く感謝しています。

photo ――イメージどおり、兄貴分的なところがありますね。
李 慕ってくれるのはやっぱりうれしいじゃないですか。僕もこれまで先輩たちを見てきたし、頼ってきたし。僕が年齢的に上の立場になったら、逆にしてあげたいなって思ってきましたから。

――逆に李選手から杉本選手、広瀬選手はどのように見えていました?
李  大地は……飯倉(大樹)のファッションにかなり影響を受けているよね。

杉本 もう、はい(笑)。

李  車もそうだし、服も地味じゃなくて色使いのパキッとしたものを着ていて自己主張が強いというか。プレーを見ていても飯倉の影響を感じるけど、それくらい向上心を持ってやっているんだろうなってことは伝わってくる。

広瀬 何か、ぼそっとボケをかましてきますよね。ドカーンじゃなくて。だから周りに気づかれてない。まあ僕だけ気づくことも少なくない(笑)。

杉本 ハハハ。

広瀬 自分の世界を持っている感じはします。

杉本 えっ、でも俺、間違ってないですよね?(2人に同調を求めるように)
2人 う、うん(70%くらいの同意加減)。

李  陸斗は運動能力がメチャクチャ高い。チームメイト同士でラウンドワンの「スポッチャ」に行ったらしいんですけど、何やっても凄いらしいんです。まあプレーを見ていれば分かるんですけどね。足は速いし、身体能力は高いし、ボールさばきはうまいし、高い数値でバランスが取れている選手。ここを意外に気づかれていなくて、ファン、サポーターの人にももっとそこは見てほしいんですよね。

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杉本 徳島(ヴォルティス)で1年一緒にやっていて、別に上から目線じゃないけど「本当にいい選手だな」って思って見ていました。俺がいたときだから20歳くらいでしょ?

広瀬 そうです。

杉本 今年、横浜で一緒になって、体もごつくなっているし、うまくもなっていた。ポジションは違うけど、素直に負けていられないなって刺激になったし、一緒に試合に出たときも安心できた。もっともっと上に行けるんじゃないかっていう期待があります。

広瀬 ありがとうございます。(2人に向かって)

李  自分でもバランスを取れているなって思うでしょ?

広瀬 そうですね。新入団会見で「特長は?」って聞かれたんですけど、突出したものはないから「特長ないです」って答えてしまう。でもそうやって全体的なバランスのところを見てくれているのは本当にありがたいです。

――このトークを聞いていても、何だか一体感が伝わってきますね。
李 さっき「引っ張っていってくれた」と言われたけど、あまり試合に出ることができていない選手たちはみんな良くやっていたと思う。(中川)風希だったり、大宮(アルディージャ)に移籍しちゃったイッペイ(シノヅカ)だったり、本当にみんな……。練習に対するイッペイの姿勢は本当に素晴らしかった。でもやっぱり大きかったのは勇蔵くんかな。勇蔵くんが手を抜かないなら、誰も抜けないでしょ。

杉本 これまで僕は試合になかなか出られなくて、勇蔵くんの姿勢を見て踏みとどまれたのかなとは思います。正直言うと、試合に出られないとなるとやっぱりしんどいし、練習したくないっていう気持ちも芽生えてくる。でも、ここで手を抜いたら何にも残らないって、思うことができました。大樹くんが(ヴィッセル)神戸に移籍して、パギくん(パク イルギュ)がケガしたタイミングで試合に出て、勝ち点を取ることができた。この経験は自分にとっても大きかったなと思っています。

広瀬 試合に出られないと、チュンくんも、ほかの選手も心に秘めるものがあったとは思うんです。もちろん自分自身も。でもみんな表には出さないんですよね。昔の自分だったら、文句を言っていたかもしれない。思いが口に出てしまうタイプなんで(笑)。でも上の人が一切そういうのを出さないし、途中から試合に出てチャンスをつかむ人もいるし、監督もそういうところを凄く見ている人なので、自分も思いを秘めて練習から一生懸命やれたのかなとは思います。

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李 俺、陸斗のお父さんとSNSでつながっているんです。(注:広瀬の父・治さんは元浦和レッズの選手)

――チームメイトの親とつながっているってなかなか聞かないです(笑)。

李 アウェイのレッズ戦(4月5日)で陸斗がゴールを決めて、本人以上にお父さんが喜んでいました。「まさかレッズ戦でゴールなんて、何かの運命じゃないか」って興奮気味に載せていましたからね(笑)。大地も言ってましたけど、もっと成り上がってくると僕も感じています。

――杉本選手で言えば、8月17日のセレッソ大阪戦(ホーム)、F・マリノス3年目で初めてリーグ戦出場を果たしましたよね。緊張とかなかったですか?

杉本 自分かなり「緊張しい」なんですよ。
2人 うんうん。(軽くうなづく)

杉本 アップのときも緊張しすぎて全然ダメで、シゲさん(松永成立コーチ)にも「余計なことはやるな」くらいに言われたんですよ。ピッチも結構、良くない状態だったので。だからそれで逆に吹っ切れた感じがあったんですよね。

――李選手は5月18日のヴィッセル神戸戦(ホーム)で、F・マリノスの一員としてリーグ戦初ゴールを決めました。

李 まあでも僕はケガもあって、個人的には思うような結果を残せなかった。ただ、繰り返しになりますけど、ずっと目指してきたリーグ優勝を達成できたのはうれしかったです、本当に。

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杉本 優勝はいいものだし、今度は自分もシャーレを掲げるほうにいて、蝶ネクタイして(Jリーグアウォーズに)行く経験をしたいなって思いました。

――最後、広瀬選手にうまくまとめていただきましょうか。

広瀬 一体感って先輩たちのおかげや練習の雰囲気はもちろんなんですけど、みんなプライベートでも仲がいいんです。一緒に食事したり、服を買いに行ったり、ゴルフに行ったり……何をするにしても一緒にいることが少なくなくて。サッカーだけじゃなくてサッカー以外でもワイワイしながら、みんなでいい時間を持つことができたのも大きかったんじゃないかって思います。

ゴールが決まれば、勝利を収めればベンチと一体になって喜ぶ。全員で喜ぶ。
無理やりつくったものではない。意図してつくったものでもない。それは自然と発生していったものだ。

宝物。彼らはそう表現した。
単に優勝したという事象のみをさしているのではない。

「みんなでいい時間を」過ごし、共有した。それが何よりの、一番の宝物――。

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二宮寿朗Toshio Ninomiya

1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当。'06年に退社し「Number」編集部を経て独立。著書には『岡田武史というリーダー 理想を説き、現実を戦う超マネジメント』(ベスト新書)、『闘争人~松田直樹物語』(三栄書房)、『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『サッカー日本代表勝つ準備』(北條聡氏との共著、実業之日本社)がある。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)を連載

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